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2013年9月17日掲載

丹羽 諭   Satoshi Niwa ルポルタージュ
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 武蔵国カメラ風土記22 秩父往還2   Chichibu Oukan Highway 2   New Work


埼玉県秩父市内の旧往還道(国道299号線)沿いに残る明治、大正の大店(おおだな)ニ棟が内部を改装して公開している。「秩父ふるさと館」は大正時代の銘仙問屋で食品と雑貨、そば屋などの店が入居、「ほっとすぽっと秩父館」は明治時代の商人宿「秩父館」を出来るだけ手を加えずに地域の交流拠点にしている。ニ棟共に町のかつての繁栄を彷彿とさせる建物である。

秩父は古代から養蚕が行われ、江戸時代には織物業が栄えた。幕末、横浜の開港で生糸の流通が増大したが、明治15年(1882)突然に生糸価格が暴落して深刻な影響を受けている。そこに富国強兵のための増税が加わって庶民の生活は困窮した。そのため生存をかけて明治17年(1884)秩父困民党が蜂起したが、政府は軍隊を出動させて武力で鎮圧、指導者6名を処刑するという悲劇も起きた。

やがて明治の末に屑糸を利用した着物「秩父銘仙」が考案されると、これが全国的に人気を呼んで秩父経済は活況を呈した。だが戦後、次第に着物から洋服へと生活習慣が変化して売上げは激減した。現在は趣味の着物地や座布団カバーなど、新たな需要に活路を見出しているという。

大正3年(1914)に熊谷から秩父まで鉄道が開通すると、渋沢栄一の助言で深谷の日本煉瓦製造会社社長の諸井恒平が大正14年(1925)秩父セメント(現在の秩父太平洋セメント)を創業して最近まで地域経済を支えて来た。しかしながら長年石灰岩を採掘し続けた結果、秩父の象徴とも言える武甲山が荒廃して社会の強い批判も受けた。現在は地域を挙げて植林による山の再生を図っている。

余談だが、この諸井恒平の孫がかつて財界の論客と呼ばれた諸井虔(けん, 1928-2006)だ。亡くなる1-2年程前だったか氏のオフィスに毎日新聞経済部の硲(はざま)宗夫記者とインタビューに行った。取材が終わって部屋を出る時だった。氏が「今日はありがとう」と言ってカメラマンの自分に握手を求めて来た。驚いた。当時は経済同友会の副代表幹事を勤める大物財界人である。あまりのことに恐縮したが、氏の誠実そうな人柄がとても深く印象に残っている。記者の硲さんも数年前に故人となった。合掌。(敬称略)

使用カメラ:ニコンD800. レンズ:FX16-35mm f/4, 24-120mm f/4G, 70-200mm f/4.

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01 秩父ふるさと館 大正から昭和にかけての建築で3棟の土蔵も付属する秩父銘仙問屋、柿原商店の店舗。現在は観光客相手の店舗。札所巡りの案内もある。秩父市本町1404-4。国登録有形文化財。

02 秩父ふるさと館 正面からみるとまことに堂々とした建物だ。

03 旧新井商店 明治初期から大正初期にかけての生糸の仲買商人の店舗。元は皆野町にあったが明治中期に現在のふるさと館の隣に移転した。土蔵造りの店舗、主屋、倉庫が奥に細長く一体となって建てられている。秩父市本町1400。国登録有形文化財。

04 新井商店の土蔵

05 左側が旧新井商店、
   右端が秩父ふるさと館


06 ほっとすぽっと秩父館 明治12年(1879)築の商人宿で重厚な造りである。お土産や野菜を扱う。1F天井の大型の神棚は一見の価値あり。入口に彩の国景観賞受賞(建物・町並み部門)の看板があった。秩父市宮側町18-2。

07 ほっとすぽっと秩父館 大時計。

08 ほっとすぽっと秩父館 大型の神棚。手前に石の大黒様がある。

09 ほっとすぽっと秩父館 柞(ははそ)の井戸。水脈は平成の水100選に選ばれた武甲山の伏流水で100年以上前から内井戸として使われて来た。柞(ははそ)は古代からの秩父神社一帯の地名。

10 ほっとすぽっと秩父館 ふすまを外すと大広間になる、昔の旅籠の典型的な間取り。

11 武甲酒造柳田総本店店舗 江戸時代後期の建築。こちらも平成の水100選に選ばれている。武甲山の伏流水を使用した人気の清酒「武甲正宗」で有名。秩父市宮側町21-27。国登録有形文化財。

12 なまこ壁 ほっとすぽっと秩父館の近く。

13 松本教室主屋 初めは旅館として昭和4年に建てられた重厚な建物だ。秩父市上町1289-1。国登録有形文化財。

14 往還道

15 旧秩父駅舎 大正3年築の木造平屋の秩父鉄道秩父駅舎。昭和59年に現在地に移築復元。秩父市大宮東平5663-1。国登録有形文化財。

16 旧秩父駅舎

17 旧秩父駅舎

18 秩父銘仙館 昭和5年織物業の振興のために秩父絹織物同業組合が建てた。アメリカ人建築家ライトが考案した大谷石積みの腰壁、外装玄関ポーチなど昭和初期に流行したデザインを取り入れ、県立の繊維工業試験場を併設している。秩父市熊木町28-1。国登録有形文化財。

19 秩父銘仙館 モダンな室内。

20 秩父銘仙館 室内の廊下に面した明かり窓。

21 秩父銘仙館 応接室。

22 秩父銘仙館 テラス。

23 秩父銘仙館 敷地内の県繊維工業試験場の建物。

24 秩父銘仙館 昭和40年代製の国産「イタリー式撚糸機」。これを使って縮緬織物などを作る。今も現役で稼動している。

25 秩父銘仙館 昭和40年代製の現役の仮織機。

26 秩父銘仙館 柄が美しい。

27 秩父銘仙館 カラフルな糸。

28 秩父鉄道のSL 明治32年(1899)上武鉄道が設立され徐々に路線を拡張、大正5年(1916)秩父鉄道に改称した。

29 秩父鉄道の貨物列車

30 武甲山

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